数学徘徊記

自由な数学ブログ。

院試を受験しました

簡単な自己紹介

記事を書いて無さ過ぎて,今どんなことをしているのかわからないと思うので,簡単に自己紹介しようと思います.

私は現在京都大学理学部に所属しています.

興味を持っている分野は表現論で,講究(4年次の授業で,少人数で教授と一緒にセミナーを行う.卒論の代わりみたいなもの)では荒川知幸先生と Frenkel, Ben-Zvi の Vertex Algebras and Algebraic Curves を読んでいます.

表現論といってもいろいろあり,まだどれを研究しようかあまり定まっていないですが,頂点代数や量子群など,新しい代数系の表現論をやりたいなとぼんやり考えています.

名古屋大学大学院多元数理科学研究科

京都大学一本で行くのは不安だったので受験しました.名古屋大学には表現論の先生が多いのも理由です.

試験は2つあり,1つ目は1年次で習う線形代数微積分,2つ目は2年次で習う線形代数微積分,複素解析や集合と位相から出題されます.3年以降で学ぶ内容や,英語は出題されません.面接もありません.

過去問をパッと見た感じ解けそうだったので,多元数理のための対策はほぼしませんでした.

本番は,過去問よりやや手数が多い感じがしたものの,完答し一通り見直しをしたつもりです.

合格発表は3日後くらいでした.合格していました.

京都大学大学院理学研究科

京都大学には数学の大学院が,数学教室とRIMSの2つあります.大きな違いは,所属するメンバーが違うこと以外はあまりないように思います.表現論だと,数学教室には加藤周先生が,RIMSには荒川知幸先生が所属しています.

出願

数学教室とRIMSは両方出願することができます.2つ申し込んだ方がお得です.

出願する際には,数学教室とRIMSのどちらを第一志望にするか,そして数学教室とRIMSそれぞれにおいて,どの分野と教員を希望するかを書かなくてはいけません.

個人的な話をすると,これにめちゃくちゃ迷いました.かなりストレスでした.そもそも僕が表現論をやろうと決めたのは去年の秋であり,表現論について基礎的な内容は学んだものの,加藤先生と荒川先生のどちらの専攻に興味が近いかはまだ定まっていませんでした.また,応用的な数学にも興味を持っており,特に3年の後期で受講したパーシステントホモロジーの授業が面白かったため,平岡裕章先生を第一志望にしようかとも思っていました.とりあえず加藤先生と平岡先生の研究室に訪問しました.また,講究を聞きに来ている大学院生(荒川先生の弟子)にも相談しました.そして,

  • まだあまり数学を勉強した気になってないので,修士では純粋数学をやりたい
  • 異なる表現論を統一する枠組みを考えているという点で,加藤先生の方が興味に近い?

という理由で,加藤先生を第一志望にしました.

とはいえ,出願から現在までで頂点代数に対する興味が高まっており,自分の判断にまだ自信を持てていません……. どこかでけりをつけないといけないのですが.

RIMSを出願する際は,「今まで勉強した内容」と「興味をもった定理」の2つのレポートを提出しなければいけません.それぞれある程度書く必要があり,結構なハードルです.私の場合,今まで勉強した内容については有限群・リー群・リー環の表現論の簡単なまとめみたいなのを書きました.(分野にこだわらず,学んだことを簡単に書いた人もいました.自分の書き方はあっていたのでしょうか?)興味をもった定理の方は,Weyl の指標公式や,ユニタリ群の有限次元表現の分類について書きました.書くのは大変ですが,書くことで自分の知識が整理されるので,ものすごく自分のためになると思います.

対策

4月から院試ゼミに参加しました.週1回,京大の院試の過去問で解く年を決めて,みんなで解いてきて,解法を確認しあうという形式でした.特に微積分のテクニックをあまり知らなかったので,ためになりました.

専門分野の環論は代数幾何学に背景をもつ問題が多いように感じます.Atiyah-Macdonald や,Mumford の Red Book の1章などの,重要そうなところをかいつまんで読んでいきました.最近出版された永井保成先生の代数幾何学入門もいい本でした.(院試関係なく,スキームの理論に時間をかける前に,自分が代数幾何学に興味を持てるかを確かめられる点で,とても良い本だと思います.)

試験:基礎科目

時間は3時間半,数学教室志望は1~6の全問を解く必要があります.

以下,ネタバレ注意です!

問題1

見た目にビビりますが,とりあえず手を動かそうと極座標変換したら解けてしまいました.

Twitterで, s=x^2+y^2,  t=x^2+2y^2 という変換を見ました.天才か?

問題2

計算量も多くない普通の行列の問題です.

問題3

ちょっと考えれば簡単な問題です.

問題4

微積分が苦手な割にはすっと解けました.(2)と(3)は, \lvert x \rvert \leq r^{-1/2} \lvert x \rvert \geq r^{-1/2} に分割し,それぞれいい感じに変数変換して解きました.

問題5

標準的な複素解析の問題だと思います.

問題6

まさに前書いた記事のようにやれば解ける問題でびっくりしました.
su-hai.hatenablog.com
最後の1分で求めるものが臨界値であることに気が付きました.

感想

個人的に上振れを引いた印象です.1時間くらい見直しできました.おそらく完答出来ていると思います.

試験:専門科目

時間は2時間半,2問を選択する形式です.代数の問題が3問あって嬉しかったです.

問題1

(1)と(2)はすぐにわかりましたが,(3)はちょっと考えてもわかりませんでした.飛ばしました.問題2と3の答案を書いた後にしばらく考えたらわかりました.できることが多い分,クリティカルな議論をするのが難しいと思います.

問題2

一目見てどうせこれだろと思い,実際にそうだったので,すぐに解けました.頂点代数のおかげで形式的べき級数に慣れていたのもあると思います.ちゃんと記述しました.

問題3

いつもの Galois 理論の問題と同じように根の情報を見つけていくと解けました.標準的な難易度だと個人的には思いました.

しかし!!! 最後の20分で,既約性を示していないことに気が付き,すこし経ってこれが非自明なことに気が付きました.あまり時間がなく,記述が雑になってしまいました.簡単に書くと,既約でないと仮定したとき,

  1. 実根をもたないから2次の既約因子をもつ.
  2. 今までの議論から,上の既約因子は  \mathbb{Q}[\omega] に根をもつ.
  3. 根は代数的整数で, \mathbb{Z}[\omega] は整閉であるから,根は  a+b\omega a,b は整数)と書ける.
  4. ノルムを見ると a^2-ab+b^2=3 となるが,そのどの解も条件をみたさない.

という方針で記述しましたが,後でいくつか証明漏れを見つけたので,減点されていると思います.

 \mathbb{F}_2 に落として既約性を示す方針もあるようです.

感想

問題2と3を解けたと思い,問題1を考えたのは本当に良くなかったです.慢心は良くないですね.

試験:英語

和訳に関しては本を1冊訳したので自信を持っていました.(特にこれといって英語に詳しいわけではもちろんないです)

正直言うとあまり英語の試験では差が付かないと思うのであまり深く考えていませんでした.

感想と言っても,普通かな~としか言えないです.

面接:RIMS

1時30分に面接に通過したか貼り出されるのですが,受かったことよりも,その日の2時!?!?と衝撃を受けました.

面接官は7~8人くらいだった気がします.モニターがあり,撮影されてZoomに映ってました.

最初に形式的な質問(出身大学や,講究など)をされました.荒川先生が「講究の教員は誰でしたか?」と聞くのシュールだな~と思いました.

(荒川)試験の出来について教えてください.

(私)基礎は概ねできたと思います.専門は問題3の最後の議論が雑になってしまったと思います.

(荒川)そうだと思います.
(荒川)さて,レポートではルート系について書いていましたが, \mathfrak{sl}_3 の Cartan 行列について教えてください.

試験の内容それだけ!?!?!? というか Cartan 行列について覚えてなくてヤバい!!!
ここに関しては本当に自分が悪いとしか言えないです.

(私)Dynkin 図形はこうで~(なぜか点を3つ書く)~~ すみません,Cartan 行列をよく覚えてないです…

(荒川)では  \mathfrak{sl}_2 の有限次元既約表現を記述してください.

(私) m+1 次元の既約表現のウェイトはこうで, \mathfrak{sl}_2 の基底はこうで,こういう風に作用します.

(荒川)では  \mathfrak{sl}_3 の有限次元既約表現について教えてください.

(私)最高ウェイトと対応していて,それは2つの非負整数 m_1, m_2 でパラメータ付けされます.

(荒川)2つの非負整数とはどういう風に対応してますか?

(私) \mathfrak{sl}_3 の正のルートはこれで,基本ルートはこれで,m_1, m_2 はその固有値です.あっ,基本ルートは2個だから Dynkin 図形はこうですね.

(荒川)では (2,1) と対応する既約表現の次元は何ですか?

(私)(ウェイトの図を描く)

(荒川)ウェイトがわかっても次元はわからなくないですか?

(私)確かにそうですね……. あっ Weyl の次元公式を使うべきですね.覚えてないですが.

(荒川)知ってたら大丈夫です.

(他の先生)4番は解いてきましたか?

(私)解いてないです…….

全体的にガバってました.Lie 環の有限次元表現については試験の数日前に勉強していたから助かったものの,例えば  \mathfrak{sl}_3 の Cartan 行列や Dynkin 図形はノータイムでちゃんと答えられるべきでした.数学の勉強をサボっているのがバレた…….

面接:数学教室

数学教室の面接はRIMSの面接の次の日でした.RIMSの面接でガバってたので,聞かれそうなことの復習をちゃんとしました.もちろん  \mathfrak{sl}_3 の Cartan 行列も答えられるようにしました.

面接官は6人でした.形式的な質問のあと,

(加藤)試験の出来を教えてください.
(私)なんちゃらかんちゃら~~
(加藤)読んだ本を教えてください.
(私)うんちゃらかんちゃら~~
(加藤)面白いと思った定理を教えてください.
(私)(RIMSのレポートで書いた Weyl の指標公式の話をする)

という感じでした.特につっかえることなく話せたと思います.

結局試験については何も聞かれませんでした.

合否

数学教室に合格しました!

開示もしてみました.基礎が285/300,専門が190/200,面接がAでした.思ったより専門が高くてびっくり.